遺伝学、分子生物学や、シーケンシング技術の発展により、現在の育種では、遺伝情報をもとに個体を選抜することが可能となっています。さらにゲノム編集技術により、ゲノム中の狙った場所に狙った変異を導入することが可能となりつつあります。しかしゲノム編集技術を活用するには、ゲノムのどこを編集すればどうなりそうかという知見が必要です。また遺伝情報をもとに選抜するためにも、形質の違いと遺伝的な違いの対応づけが必要です。我々の研究グループでは、遺伝学やバイオインフォマティクスなどの研究を通して生物の多様性の遺伝的基盤を明らかにし、育種に有用な知見を得ることを目指しています。特に、これまであまり育種がされてこなかった水産物に着目した研究を行っています。
研究内容
種内の遺伝的多様性と適応進化
育種は多様性を活用するプロセスといえます。そこで我々はたくさんの個体のゲノム配列データを用いた集団遺伝学解析を行うことで、各種の遺伝的多様性を理解し、さらには育種に有用な形質の分子マーカーの開発に取り組んでいます。また種の環境適応のメカニズムや、人為選択の影響について研究しています。
非モデル生物における有用遺伝子の探索と研究基盤の構築
育種に有用な遺伝子を探索する際には、モデル生物などで得られた知見が参考になります。しかしモデル生物と対象種の共通祖先が分岐してからの進化の過程で、遺伝子の機能がそれぞれの種で変わっている場合もあります。特に水産の無脊椎動物では近縁のモデル生物がなく、有用遺伝子の同定が困難です。我々はオミクスデータ解析やゲノム進化・分子系統解析、さらには甲殻類での実験系の構築を通して、非モデル生物における有用遺伝子の探索やそのための基盤づくりに取り組んでいます。
性決定機構や繁殖様式の遺伝的基盤と進化
育種を行うには、対象種が子を作るメカニズムを知る必要があります。ヒトなどの哺乳類では基本的にX染色体とY染色体の組み合わせによって性が決まり、オスとメスの交配によってのみ子ができます。しかし自然界に見られる性決定機構や繁殖様式は実に多様であり、例えば魚では、環境で性別が決まる種や一生のうちに性転換が起きる種が存在します。我々はこのような多様な性決定機構や繁殖様式の遺伝的基盤と進化における成立過程の解明に取り組んでいます。